詩・モード Z a m b o a volume . 4 |
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photograph : : ni-na |
花について
どうせ一度きりの花に 水をやって何になる 花は心 水はひとのやさしさ だから余計にそう思ってしまう 水をやって 何になる と 水はひとのやさしさ 単純な比ゆさ それくらいですむのが人生だ 遅すぎたような水をやって何になる ぼくは ただ 水のない砂漠に咲いてしまった うつくしい花について |
photograph : : ni-na |
涙
遠くからきたひとにも入りやすいように |
時
悲しみに沈む時 胸は悲しみでいっぱい 孤独に耐えるだけの時 心はさみしさでいっぱい わたしにはそれしかない わたしにはそれしかない わたしには涙しかない 悲しみの時 わたしはまだ生きている 孤独の時 わたしは確かに生きている やがて うつくしい夜がやってくる そして わたしは外に出る そしてわたしはあなたに会って いっしょに幸せになりましょうと言う 幸せになりましょうと言う |
photograph : : ni-na |
photograph : : popoly |
私がどうしても捉えられない、この微弱な光を 坂輪さんの言葉は、決して難しくはない。 |
生命線 電話が鳴った
うとうとと浅瀬をただよっていたので がくんと後ろむきに 岸にぶつかったボートのようだった 投げ出されたオールをつかんで 一握りに余ると思っていたのに こうして改めて見ると案外頼りないものと ぼんやりと細く電話のベルをたどった 午前三時の電話なんて ろくでもないに決まっている 失恋しただとかよっぱらっただとか やっぱり君が忘れられないとか 誰か死んだとか 死んだとか また 手探りで階段を降りる 水びたしの眠りを足もとにずるずるひきずっている 死んだからって電話をくれても どうすることもできないのに いいところだけ思い出そうと 優しいしぐさを思い出そうと 笑った顔を思い出そうとはするけれど 暗ければ音の輪郭は確かになる 全身で泣いたりやんだりする電話から 受話器をがちゃりとひきはがして 耳にあてた いきなり部屋中静かになる 「もしもし」 「・・・・・・・・・・」 手にとれるような沈黙のあと 「お前泣いてばっかりだからさあ」 と受話器が言った 頭の芯がぱしっと凍りついた 困ったことになった ここで泣きながら聞こえるはずのない 声と話すのも良かったけれど もう死んだひとは電話をかけてこられない だから死んでいるのだ それが死ぬということ もう一方的にしかかかわれない そっと名前をよんでみた 名前はしばらくちりぢりになってから 小さな穴を別々にくぐっていった 「うん。もう泣くなよな」 電話は切れた ぴんと張ったひものむこう側を いきなり離されたようだった しばらく受話器をつかんだまま 立っていた 耳には同じ音だけが規則正しく残っていた 裸足の足が冷たい 泣いてないのにと思った 泣いてないのにもう泣くなだってばかじゃない 久しぶりに気持ちは波立った とても久しぶりに泣けた 胸のところに抱えた受話器は体温を吸って あたたかく湿っていた |