詩・モード Z a m b o a volume . 16 |
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今月の select contents ●特集 布村浩一 ○バッドニュース・グッドニュース ○船 ○伊豆弓ヶ浜 ○雨のふる大通り ○今日は終わる ●耀乃口穰『パルス・ウィーブ』 最終回 |
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photograph : : ni-na バッドニュース・グッドニュース 曇りの、湿っている 街がみえる窓ガラス すべての葉が落ちている 木の 骨のような 枝がみえる 東京に帰ってきた方が ホッとすると思った 正月から二週間が過ぎて ぼくの心は この街と平行に動いている 「ふつう」という考えも 硬すぎるもののように思えて ぼくの胃は当たり前に動きはじめている テーブルの上のコーヒーカップをにぎりながら 「ふつう」のすべり落ちていく 夕方の 明かりが点々とした 街をみている 街の大きさの半分だけ 明かりがついて あとの半分は 明かりをつけずに じっとしている これからゆっくりと 動きはじめるのだ 読みつづける一九七四年の「日の駆けり」という 本 古い文字 古い「 」 読みつづけた 過去は超えられたのではなく ただ過ぎてきたのだと思った 東京には とにかく 湿った葉のような 親類が 叔父さんや叔母さんが いない それだけでもいい ぼくは一人っきりで街が夜に変わっていくのを みていることができる 今日はいつまでもホッとしていることができるのだ |
photograph : : ni-na |
船 |
photograph : : ni-na |
雨のふる大通り 雨のふる 駅前の大通り 車が走っていて 傘をさす人たちが歩いていく 久しぶりの雨だな ぼくは約束がすべて終わって 次は何が起こるのだろうと くらい曇った空をみつめている 別に何が起こらなくてもいい こうして窓の大きなビルの二階から 車の移動や 終わらない雨をみているだけでもいい 普通の人になるという物語が あと少しだけ残っている それがなくなったら ぼくはもう 何もないな 1970年の暗い空から歩きだす 1970年の透明な夏から歩きだす それから 30年もたって 普通の人になろうとしているぼくは 雨が降ることだけをみつめている 今日はこのことだけしている 思っていることは 次の駅にやってきて もう幕は降りたということ 席にすわり 雨の、 大きな風景、 をみている エンド・マークの後の 明かりがつく前の ホール 傘をさして歩いていく人を五人数えた もっとたくさん歩いていく 切れることなくつづく (また、数える) 駅からまっすぐの大通りで この街に降りた人たちが 雨の降る日の出来事に向かって 歩いていく |
● ● ● 今日は終わる 「助けて」という二つの声が響いて 九月の三ばん目の週が終わる 一つは抑えた声で 一つは小さく響く声で だれもがふつうの人になって その後が埋まっていない これからはぼくはあなたに興味を持たない はなれていく歩行のなかで どうしたらあなたに関心を持ちつづけられるだろう いい仕事なんてほんとはどうでもいいような気がする 見ているうちにあなたは視界から遠ざかり もう会わない たぶん 七十の照明がともって とてもきれいだ だれもが特別な人ではないこの街で ぼくは激しく太ったり 激しくやせたりして 特別なことをしようとする 大通りで うつむく歩く人にも 激しく太った跡がある でも どうしたらあなたに関心が持てるのかわからない 暮れはじめる街を 車が通りすぎる そのライトを目で追う ここでやめる 全部が見える場所から遠ざかれば 一つの標識が 一つの家が 一つの明かりのついた道がみえてくる 影にはいってしまえば ぼくは街の出来事の一つになって 今日は終わる photograph : : ni-na pagetop / contents ●「バッドニュース・グッドニュース」 *初出誌「地上」27号 発行2000年4月 ●「船」 *初出誌 詩の新聞「midnight press」18号 1995年12月 ●「伊豆弓ヶ浜」「雨のふる大通り」「今日は終わる」 詩集「大きな窓」詩学社刊 所収 |
見るために、触れるために、それに忘れるためにも壁に窓を、 それもできるだけ大きな窓を開けて、深く深く息をする。 「一本の単純な力」を確認するために、踏み出すその一歩には不思議な晴れやかさが満ちている。 詩集 『大きな窓』 布村浩一 詩学社刊 本体1400円(税別) ISBN 4-88312-199-2 →ご注文はこちらまで。お気軽に。 |
つなぎとめたいもの、取り戻したいものがあります。 ‥‥同じように、 わたしにも。 photograph : : ni-na ガールフレンズ 耀乃口 穰 ワタシタチは別れるまえに都庁の展望室にのぼった キンとする耳鳴りと一緒に高層階エレベータに運ばれて 家族連れでごった返す都庁四十五階のラウンジに ワタシタチはやってきた さっき囲んだばかりの中華料理の匂いが ワタシタチ全員のからだに染み付いて 料理はおいしかったけどちょっと気持ち悪い 時間にルーズなメンバーが多く 吹きさらしの中 新宿西口交番前で待ち合わせすること小一時間 人気まばらな休日の午後のオフィス街を ワタシタチは連れ立ってぞろぞろと歩き ランチのピークを過ぎた チャイニーズレストランのテーブルに並んで座った ワタシタチは 「結婚した子がひとりと 結婚予定の子がひとり」 「男と別れた子と 男と別れられない子がひとりずつ」 冷たいくらげや揚げた春巻き 海老のチリソース 鶏肉の炒め物の皿を 次々と平らげて空にしながら 「別れた男とよりを戻した子もひとり」 「親に見合いをセッティングされた子もひとり」 デザートのマンゴープリンにスプーンを入れ 胡麻をまぶした団子を口に放り込み ジャスミンティーを啜りながら 「まだ学生をやっているのがふたり」 「家業手伝いと家事手伝いがひとりずつ」 「あとは全員会社づとめ」 「倒産寸前の企業にいる子はかろうじて無事」 うるさく笑い合い、じゃれ合いながら過ごした 展望室ってもっと広いのかと思った と 誰かが呟いた 意外とこじんまりしてるよね と 誰かが応えた でもお台場まで見える。富士山は無理だけど そう はしゃいだ誰かもいた また別の誰かが記念写真を撮ろうと カメラ付きの携帯電話を取り出したけれど 西日がきつくてうまくいかなかった ワタシタチは まるでオノボリサンみたいね と言って笑った ワタシタチは別れるまえに都庁の展望室にのぼった そして降りるときは ワタシタチ をやめていく その前の インターバル 走ってゆくあてはまだ決めていない わたしはまだ何者でもない わたしはあなたに何かを言おうとしている それはあなたに通じるだろうか わたしはあなたの指に触れることができるだろうか それとも手のひらを翻して頬を打つことになるだろうか わからない わからないけれど ただ いま 静かなあなたの声を 聞きたい FIN ● 耀乃口穰のサイト・The Night Trippers' Lounge pagetop / contents 耀乃口穰の「パルス・ウィーブ」はこれでお終いです。ありがとうございました。 穰ちゃんはもう次の面白い新連載を準備中。新しい試み。 お楽しみに!(木村ユウ) |