詩・モード Z a m b o a volume . 21 |
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ほろほろ 朝 家を出て 透き通る犬の頭をなでる それはとても壊れやすいものだったので 手にはいつも かすかな親近が寄せてくる この犬は雲かもしれない お手 お坐り 昨日 カニを食べに行きました 温泉にも入りました カニの頭をぱかっと割って味噌も全部食べました ほんとにカニはかわいそう 言いながら 君は全部食べました 雲は形を変えて もう犬ではありません カニでもない 何でもない 何もない 「いいこ いいこ」 あおむくと 何だかほろほろしたものが ほろほろ 降ってくるんだよ pagetop |
5 窓辺のあぶく より 夜更け。 (睡眠薬の小壜を見つめながら) 「しかし、ほんとにこんなもので死ねるのかね」 「死ねるんじゃないですか。だって、あなたがそう…」 「わたしはね、昔、まだ若い頃、すごく眠れない日が続いてね。それがあんまりつらいんで、病院へ行って睡眠薬をもらってきたことがあるんだ。しかし、ちっとも眠れなくって、それ以来、この睡眠薬ってやつがどうも信じられなくなってしまってね」 「でも今は寝るんじゃなくて、死ぬんですから」 「眠れもしない薬で死ねるのかねえ」 「じゃあ、試してみますか」 「試す?」 「少しだけ飲んでみるんです」 「それで?」 「眠れたら死ねるって分かるでしょ」 「それでもし、ほんとに寝てしまったらどうするんだい」 「起きてからまた飲めばいいじゃないですか」 pagetop |
身がぶよぶよとあふれだす 1 駐車場 2 バナナチョップス ○web非公開 3 光秀 ○web非公開 4 宇宙 ○web非公開 5 田中健治さん ○web非公開 6 男舟 ○web非公開 7 ジングルベル ○web非公開 1 駐車場 二人の男が車から降りてくる。背が高くがっしりしたのと、小さくてネズミみたいのと。きょろきょろ、突然、走り出す。誰かが追われながら逃げてくる。後輩の広田君だった。 間に入り、訳を聞く。 「宴会の時こっちが挨拶してるのに、こいつは返さなかった」 「返したじゃないですか」 「あれで返したつもりかてめえ」 「そんなこと言われても…」 「殺す」 二人は殺し屋だった。 「それなら一対一でやれ」と僕は言う。 「え、やってもいいんですか」と急に広田君は元気になる。 一応公務員なので我慢していたようだ。 彼は大きい方と組み合うと、軽々と持ち上げ、膝で二つ折りにする。意外と強い。「次はバナナチョップスだ!」と今度は小さい方に向かって腕を振り上げる。相手は驚いて逃げていく。広田君は追いかける。その後を僕も追う。走って走って、やっとの末に追い着くと、男は自転車の空気入れのようなもので口から空気(ひょっとしたら水かもしれない)を入れられ、ぱんぱんに膨らんでいた。ぱんぱんに膨らんで正座していた。苦しいはずだが、顔がまん丸なので何だか笑っているようにも見える。空気入れ(のようなもの)を借りて僕も入れてみる。少し入れると少し膨らむ。たくさん入れるとたくさん膨らむ。なるほど、こんな懲らしめ方があったのか、と僕はいたく感心する。 pagetop |
タコをいっぱい食いたいな 1 空腹 ○web非公開 2 波 ○web非公開 3 物理 ○web非公開 4 城下町 ○web非公開 5 サイン ○web非公開 6 凱旋 6 凱旋 気がつくとみんなと一緒に歩いていた。どうやら手術は無事に終わったようだった。道の両側には人垣ができ、拍手や歓声が寄せてくる。隊列へ駆け寄ってくる女子もいる。一夜で僕らはスターになった。よくやった、よくぞこれまで耐えた、そんな四方から飛んでくる声の中を進んでいると、今までの苦労が忍ばれて、不覚にも涙が込み上げてくる。 国許にももう伝わっているかなあ。隣でヤスベエがひとりごとのように言う。見ると、彼の目も赤く腫れている。 帰ったらタコをいっぱい食いたいな。 昨夜はソバ一杯だけだったしな。 思い出すと、急におなかが減ってくる。国許のぽっちゃりとしたタコの姿が目に浮かぶ。 後は幕府の沙汰を待つだけだ。 押し寄せる群集の、この浮かれた町を出て、早くひとりになりたいな。 新幹線はフルスピードで西へと向かい、やがてなつかしい海が見えてくる。 pagetop ※「昨夜」に「きのう」とルビ(編者註) 高階杞一 ホームページ |