トップ入口 

 
 
高村光太郎

 

 
道程
母をおもふ
孤独が何で珍らしい
晩餐
あどけない話
レモン哀歌

荒涼たる帰宅
梅酒
案内
あの頃
報告
 
 
あどけない話   高村光太郎
 
 
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ、
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。
 
 
 
 

●ルビ
阿多多羅山(あたたらやま)

 
 
 
 

底本:日本の詩 第5巻 高村光太郎集 伊藤信吉編 集英社刊

 

 
 
presented by Poetry Japan 著作権は各著作者に帰属します。禁無断転載。
(c)Copyright 2003-2XXX by Poetry Japan All rights reserved.
All original works published in this web site remain under the copyright protection as titled by the authors.

 お問い合わせ