トップ入口 

 
 
宮沢賢治

 

 
永訣の朝
札幌市
青森挽歌
林中乱思
眼にて云ふ

雨ニモマケズ
雨が霙に変ってくると
 
 
眼にて云ふ   宮沢賢治
 
 
だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな
ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから
そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといゝ風でせう
もう清明が近いので
あんなに青ぞらからもりあがって湧くやうに
きれいな風が来るですな
もみぢの嫩芽と毛のやうな花に
秋草のやうな波をたて
焼痕のある藺草のむしろも青いです
あなたは医学会のお帰りか何かは知りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば
これで死んでもまづは文句もありません
血がでてゐるにかゝはらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄なかばからだをはなれたのですかな
たゞどうも血のために
それを云へないがひどいです
あなたの方からみたらずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やっぱりきれいな青ぞらと
すきとほった風ばかりです。
 
 
 
 

●ルビ
嫩芽(わかめ) 藺草(ゐぐさ) 魂魄(こんぱく)

 
 
 
 

底本:日本の詩 第10巻 宮澤賢治集 天澤退二郎編 集英社刊

 

  
 
presented by Poetry Japan 著作権は各著作者に帰属します。禁無断転載。
(c)Copyright 2003-2XXX by Poetry Japan All rights reserved.
All original works published in this web site remain under the copyright protection as titled by the authors.

 お問い合わせ