セコンド(選外佳作)vol.30 Send us your poetic heart. |
線 ●大覚アキラ ●SITE あたらしい世界にやって来たぼくたちは とりあえず線を引いた ぼくの土地 きみの土地 あなたの土地 彼の土地 彼女の土地 先祖の土地 生まれてくる子ども達の土地 神様の土地 誰のものでもない土地 そうやってたくさんの線が引かれ 線が増えるたびにぼくたちは 賢くなったり豊かになったりしたような気が なんとなくしたけれど もう線を引くための土地が そう多くは残っていないことに ぼくたちは気づいていた 次にぼくたちがしたことは 土地の交換とかそういうことだった 線の引きなおしがあちこちでおこなわれ ある者は より広い土地を手にし またある者は 土地の代わりに富を手にしたが はんたいに 騙されて土地を失う者や 線の引き方のいざこざで命を落とす者もいた そのうちに こっそりと線を引きなおして土地を広げる者や 力ずくで線を引きなおす者が現れはじめ ぼくたちは線を守るために 夜も安心して眠れなくなってしまった 線を踏み越えた者は 子どもであろうと容赦なく殺され 誰もが線のために人を疑い 誰もが線のために人を殺し 誰もが線のために命を賭けた そんな繰り返しに ぼくたちが疲れきったある日 雨が降った 雨は何日も降り続き あたりは水浸しになった 数週間にわたって降り続いた雨が上がると 線はすべて きれいに消えてしまっていて ぼくたちは為す術もなく あたり一面のぬかるみの中で ただ呆然と立ち尽くしていた やがて一人の幼い子どもが 落ちていた棒切れを拾い上げ ぬかるんだ地面に一本の線を引いた 子どもはつたない手つきで その線に葉と花びらを描いた ぬかるみに描かれた一輪の花が 太陽を浴びて輝くのを眺めながら ぼくたちは ようやく微笑むことを思い出した 評● 河野龍彦 ●SITE 一読して、やられた、と思った。学生時代に発言した事が、主旨が一緒だったからである。 「国境がなければ醜い戦争が起こらないのだ。」と、作品は、うまく、構築されているし 基本的な指摘は、全く無いようだ。コツコツと投稿してきた甲斐があったようだ。 次の作品期待しています。セコンドの座から下りないように。 傘 ●KAWACHI ●SITE 傘をさして 雨をよける よけられた雨は 無限に降り続き やがて海になり・・ 傘は たくさんの雨をよけるけど 傘は1つあったら 何度でも雨から守ってくれる そんな傘に いつでも感謝できるよう 雨にうたれて 水びたしになった傘を思う 評● 河野龍彦 ●SITE 単純な日常のなかで、うまく切り取り、作品に仕上げた事は 詩を書く者の原点である。その報いがセコンド掲載となった。 新鮮である。作品が。 日々の置場所 ●たるみ ●SITE 人は偶然という海を とりあえず 沖に向かって泳いでいる 赤信号を待っている人々にむけて 「手動」と大きく横断歩道に書いた 普段通りの朝に「普段通りの朝」と タイトルをつけた 世界地図から地球儀へ やっと陽が照ってきた しっかりしないと 石像を横切り 町並みが見える所 を 手のひらにそっと包んで 最終ページ 書きかけのまま置いて行く 未来ーー その先にしかないもの 積み上げてきたものの先にあるもの ぼくたちの次世代の話 そこまで気にしながら 毎日を生きていけないけれど 未来に何を残すかと考えると 今日という日はまた新しい その時 105歳を迎えるおばあちゃんが 風にあたっていた 何もなかったように 評● 河野龍彦 ●SITE 最後の二連が、この作品を活かしてくれた言葉。 読み手に一言。意味を辿る作業より感覚的に、何かを感じて欲しい。 たるみさんは、作品を毎回真っ先に投稿してくれる人。「努力」という 言葉が、いちばん似合う。 【次点及び統括的感想】 次点は、あべかめりさん一作(セコンドにと悩んだ作品)初投稿であるから 次の作品を見てみたい。次点は六割近く基礎的な土台を掴みながら、自分独自の 言葉を模索している。私のレビュー無しでも、推敲しながら作品を客観的にみる 力はすでに備わっている。セコンド掲載の目標ではなく、独自の言葉を創作にと 没頭して下さい。セコンドに投稿しないのでは無くて。最近作品のレベルが上がって きているなと、実感しています。嬉しい事です。学んで下さい。書き続けて下さい。 その一言に付きます。 ● 河野龍彦 |