菫 八歳の少女は 庭のクロウメモドキの枝を見ていた 足はその棘のように尖り 地を刺し 庭には一面に野路菫が咲いていた 両足に白蟻が棲みついたのを知ったのは 四歳の頃だった 七歳の夏 眠れない夜を無数の羽蟻が飛んだ 止った時間が 空虚なコロニーを覆い 車椅子の車輪だけが空回りしていた 山梨県下部町一色 富士川の丘陵地に囲まれ 夏には数千の蛍が飛び交う里 毎年この蛍を見に 少女は祖母の家まで 父の車に揺られてきた キンジストロフィー この園芸種の植物名にも似た病に 幾千もの蛍は舞った 眼に焼きついた光跡だけが 少女の歩幅を曳く 明滅し遠くのものを呼ぶ あれから 今年も庭には 野路菫が咲いている 伊原れいのSITE 西川正美 |
「別の暖かき風に・・・・」 |
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「羽化する夜」 |
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「霧立つ朝に・・・・」 |