選者  寺西幹仁 http://www3.ocn.ne.jp/~simarket/
 
 
 

 
 
 
無音
    大下さなえ
 
 
 
 
空はまっさらで、何の傷跡もない。
知らない人たちの汗が降ってくるような気がしたが、
あたりは無音のままだ。
深い緑の茂みのなかを走っている。
足の裏をなにかがちくちく刺してゆく。
わたしたちは木に引っかかり、破れかかったポリ袋のようだ。
だれもがとなりにいるだれかにそっと手をのばしている。
自分からは見えない場所で。
雨が降ればいい、とわたしは思っている。
袋たちがばたばたと風にたなびいている。
空は突き抜けて、なにもかもが光っている。

 
 
 
 
作者HP  http://homepage1.nifty.com/kyupi/index.html 
 
 


 
 
 
 
 

  まもん姉さん   東直子
 
 
 
久美子姉さん、お誕生日おめでとうございます。
一緒にくらした時間を、離れて暮らした時間が今日、追い抜きますね。
 
この季節になると、茱萸のとても好きだった久美ちゃんが、
学校に行く途中に、よその家の垣根や道ばたの茱萸を、
つんでは食べ、つんでは食べ、していたのを思い出します。
わたしもまねして、よその家の垣根や道ばたの茱萸を、
つんでは食べ、つんでは食べ、しました。
学校に行くとき、久美ちゃんはいつもだまりこくっているので、
学校に行くときは、だまって歩くものだと思っていました。
学校は遠くて、坂がありました。
池のそばをとおり、川のそばをとおり、薬局の前をとおり、ゆきました。
薬局の前の大きな瓶からいつも水があふれていました。
わたしは、学校にいくのがいやでしたが、久美ちゃんはどうだったのかな。
鳩胸の久美ちゃんと猫背のわたし。
学校へ行くときは黙って歩くのが好きでした。
 
あっしらのきち
トイレがわりの排水溝
きいきいいうブランコ
食用ガエルを洗った水道
おばけ屋敷のベッド
巨大なつくし
かかしけんけん
セブンブリッジ
七並べ
ざぶとん
戦争
人生ゲーム
ダイヤモンドゲーム
オセロゲーム
マッチ棒をかけた花札
のりちゃんが起きてこないうちに、
はやくはやく。
 
こんど返すっていってたアイスクリーム、まだ返してもらっていないけど、
毎日蒸し暑いけど、
元気で、ね。

 
 
 
 
作者HP  http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/ 
 
 


 
 
 
 
 

  うつつ   安田倫子
 
 
 
重ならない二枚の紙
ひら ひら と
南からふく 風 と
東 からふく風 と
その真ん中に立ち
ゆれるカミに透けて見える
光と
カミのむこうに見え隠れする
景色と
ちらちらと
ただ立ち尽くし
挟まれてもいない
自分と
重ならない
カミと
一緒に
風の匂いをかごうと
目をつぶる
 
(いつかこの真ん中の
 なだらかに反った道を
 そしらぬ顔で
 歩いていくだろう)
 
重なることのない二枚の紙と
北 へふく風 と
西へふく 風と
別々に
今はただ
ぼんやりと

 
 
 
 
関連HP  http://www6.ocn.ne.jp/~eigakan/ 
 
 


 
 
 
 
 

  リブラ   安孫子 正浩
 
 
 
行き過ぎた黒いシャツの影に振り返る
それから そんな筈はないと思い
まだ自分が何ひとつ忘れていないことを思い知り
失ったものが放つ甘い匂いにクラリとする
天秤の形をしたピアスが耳元で揺れる
小さなメモに欺瞞と書き
二枚目のメモに信用と書き
それをちぎって捨てたのはわたし
それを丸めてしまったのはわたし
もう戻らない
戻らないと知っているのに
 
地下鉄の駅から階段を上がったところの
閉店間際のTSUTAYAで男に声をかけられた
ねえ それ一緒に観ない? 週末なのにひとりなんだよ
何も深く考えることはなく
わたしは いいよと頷く
コンビニエンスストアで缶のカクテルとビールを買い
普段は通らない住宅地のなかの小道を
本当の恋人同士のように手を繋ぎ
出会ったばかりの男の部屋にいく
シャワーを浴びたら と男がいい
わたしは うん と頷き
シェーバー 見たことのないボデイソープ
そうして知らない男の部屋でシャワーを浴びながら
何をしているのだろうかとふと思う
最近のわたしはずっと
こんなふうに頭がおかしくなっているので
他の誰にも見えない 皮膚の上に残された
無数の小さな傷が見える
それは全部 
黒いシャツの似合うあなたが残していったもの
浴室を出て
馴染まない匂いのするタオルで髪を拭き
出会って一時間も経たない男と
口唇を重ねて 少し開いて重ねて
ピアス 外さなかったんだ と男がいう
外し忘れていたことに気づく
天秤を指先で揺らしながら
可愛いね と男がいう
わたしはテーブルの上の灰皿に
男の吸いさしの煙草を見つけ
裸のまま 口唇に咥えて吸った
 
フラグメンツは素敵な形をしている
煙草 天秤の形をしたピアス
失われたものばかりが放つあの甘い香りは
触れて確かめようとするわたしの指先を
不意に裏切り 鋭く切りつける
待ち合わせ場所だったスターバックスコーヒー
二人でいったバーのカウンター
あの小部屋
わたしはそれらを拾って歩き
薄い胸の上にピンで留める
つなぎあわせてみようとして 今夜もまた失敗するだろう
会わないようになってから わたしもあなたも
webで公開していた日記を閉鎖しました
いろんな男の人にゆだねてしまうのは
そうしないと 眠れないから
 
ときどき体の深いところで
あなたと聞いた官能的な鳥の囀りの幻を
思いだし
セックスのあとで煙草を吸うキミの顔が好きだと
いってくれたあなたの言葉を 思いだし
取り返しのつかないことごとを
抱えて
抱えたままで
行き過ぎた黒いシャツの影に振り返る
そんな筈はないと思い
まだ自分が 何ひとつ忘れていないと思い知り
耳元でまた小さく
揺れる また小さく

 
 
 
 
作者HP  http://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/9924/ 
 
 


 
 
 
 
 

  今、ぼくが死んだら   金井雄二
 
 
 
今、ぼくが死んだら
と思いながら起きあがった
ブラインドの羽根を人差し指で押し下げて外を見る
斜めになった陽射しが入る
午後なのに子どもたちの歓声がない
救急車のサイレンが遠くで鳴っている
時計の秒針が動く
スヌーピーのぬいぐるみがカタッと動く
お腹を押すと笑いだす玩具を遠ざける
タオルケットをかけなおしてから移動する
別の部屋に入る
ドアは閉めない
ほっとする
音楽はやめておく
大好きな詩集を手にとる
外は木枯らしだが、中は暖かい、そんな詩集だ
髪の毛を梳かしていないことに気づく
顎の先にうっすらと髭が伸びているのがわかる
詩集を一冊読む
いいなぁ、と思う
どのくらいの時間がたったのだろう
外で子どもたちの声がひびきはじめた
詩集をもとの場所にもどす
先ほどの部屋へ様子を見に行く

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  生成群舞   牛島敦子
 
 
 
今日 私の上に
雲ばかりがうつくしい――
八階の窓のサッシに腰掛けて
駅へ正面につきささる
三車線道路に
流れていく車を
見ている
 
信号が赤に変わったので
行儀よく車が止まってゆく
左折と右折と真ん中の車の数は
何故だろう
ほとんどおんなじだ
 
運転している人の
顔が見えない角度なので
ハンドルを握る両手だけを見ている
停止しているのにだれも
手を離してはいないので
これもなんだか
不思議な気がする
 
待ち時間の表示デジタルが
10の次突然0になり
言い合わせたように秩序正しく
動き始める 白よ、ブラックよ、ワインレッドよ
 
おお・・・い・・・
 
身を乗り出して私は知らせよう
そのメタリックの屋根いっぱいに
映っている銀色の雲のこと
気づかぬままにあなたたちが
とおくはこんでゆく
空の断片を
運ばれながら さらにこの一瞬も
くずれ 生まれる
群舞のかたちを
 
(あなたがみているフロントガラスのむこう
 あれはただの街の背景
 お天気を知らせる書き割りの空
 お天気予報を裏付ける
 記号としてのただの水蒸気)
 
知らせよう
今 
私はここから
たださかさづりに祈る蜘蛛のように!

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  電車道   しげかねとおる
 
 
 
窓越しの桜、もう終わりらしいね
東武電車で俺の隣の席に座った
IT関連風のきちんとした身なりのサラリーマンが
おもむろに何やら分厚い資料を出してきたので
俺は別に興味はなかったんだけど
まぁ、社会勉強の一環という気持ちで覗き見したところ
「幕内力士の星取り表」を先頭に、その他相撲情報満載のファイルであった
 
このおっさんは一体何者だ?というか何やっとんねん
俺は暇にまかせておっさんをリサーチしてみると
次の駅で降りててくてくとホームセンターに入っていった
おっさんの速歩きには参ったぜ
が、そのホームセンターにはもっと参った
一階をスーパーマーケットとペットショップにして
百円均一コーナーにでこぽんとハムスターを並べつつ
二階は欧風高級輸入家具コーナーという無茶苦茶な組み合わせであった
 
おっさんは迷わず二階へ上がると店内をものすごいスピードで歩き回っていたが
突然急ブレーキをかけるよう立ち止まり一点を凝視した
視線の先を追いかけるとそこには1メートル弱のうさぎを形どった傘立
陶器製で値段も七千五百円と俺は傘立の相場は知らんが
そうびっくりするほどの値段でもないので高級品ではないのだろう
だが、この作者はうさぎのかわいいしぐさを熟知している
陶器ならではの発色と陶器とは思えないふわふわ感を見事に表現している
そして、顔がいい。とてもいい傘立だ
さらに決定的であったのはロップイヤーであることだ
 
俺は速攻「…でかい、すごくでかいウサギだ…」とつぶやく相撲のおっさんを
すりぬけて、うさぎをかつぐとレジに持っていった
かなり重いよこれ、米袋くらいあるんちゃう?
 
本当に買うんですか?という表情で「あいにく、箱がぁ」という店員には
笑顔で応対し裸のままうさぎ傘立をかついで電車に飛び乗って飛び降りた
地上は土砂降りの大雨
どうでもいい、ああ、でも桜ほんまに終わりやなぁ
俺は君の会社までうさぎを抱きかかえて銀座三丁目を走り抜ける
すれ違う番付としては上位陣であろうサラリーマンや
飴細工みてぇな傘をさしたねーちゃん達は常に半笑いで視線がちくちくする
どうでもいい
君が笑ってくれたらそれでいい
君が笑ってくれたらそれでいい
君が笑ってくれたらそれでええねん
 
が、視線のちくちくにはうんざりなんで
途中からうさ公と会話を始めたらまるでちくちくしなくなったぜ

 
 
 
初出  「詩学2003年3月号」  詩学社 http://www7.ocn.ne.jp/~shigaku/ 
 
 
 


 
 
 
 
 

  見当識(術後の詩人のために)   野本京子
 
 
 
ここがどこかわかりますか
 
お名前をおしえてください
生年月日をおしえてください
お年は おいくつですか
 
寒くありませんか
痛いところはありますか
ああそれは
縫ったばかりのそこは
やはり とうぜん痛いでしょうね
どうかあまり 心配しないで
 
身長と体重をおしえてください
手や足に
古い傷あとはありませんか
あったとしたら
それにまつわる思い出を
良いものと悪いもの ひとつずつ
話してみてください
 
もっとも幸福な朝の
食事のメニューをおぼえていますか
恋のために高鳴る胸の
息苦しさをおぼえていますか
せわしく日は暮れて
焦げたような匂いの秋の日の出来事を
おぼえていますか
 
だれかに
なぐられたことがありますか
避けるべきでない人の打擲を避けてしまったために
かえって
じぶんの胸が痛んだことはありませんか
あるいは
苦しい記憶をほんの数行のドラマに
手早く書き留めてしまったために
誰にというのではなく
後ろめたい思いをしたことを
 
おぼえていますか
 
ああごめんなさい
質問は以上です
今夜はよく眠って 枕灯はつけておきますか
では最後に 小さく手を振ってみてください
こんなふうに、です
「ばいばい」
 
"バイバイ"

 
 
 
初出  「すとん とネ」 
関連HP  http://ttheater.hp.infoseek.co.jp/ 
 
 


 
 
 
 
 

  非劇的な死   究極Q太郎
 
 
 
(死は 非劇的で
だれからも 見過ごされてしまう)
 
 
 
東京競馬場の 障害レース
最終コーナーを 回った 馬群から おくれて
駈けてきた 一頭の 馬
 
どっかに ジョッキーを
振り落として 鞍上を カラにした まま
 
だが 禦しきれない 遠心力で
もって 障害物へと 激突
 
すさまじい 音を 炸裂させて
倒れた 馬がいた
ぼくの すぐ 目の 前で
 
 
はなから 箸にも 棒にも かからず
勝ち負けにも 展開にも 無縁な
みっそかすの 椿事
 
そいつは どことなく
間が抜けた 出来事だった
 
 
周囲の 観客は
だれも それに かまわず
まるで なにごとも
起きていない みたいだったけど
 
そのとき ぼくは 思わず
出走表を あらためていた
 
かさばる 搾りかすのような
スポーツ新聞を ひろげて
 
馬の 名を
読んだ
 
 
ビブラビブレという
その名を
 
記憶に
とめておくために

 
 
 
詩集  「究極Q太郎の詩「上巻」名無しの名前」
ブックスでも取り扱っております。
 
 
 


 
 
 
 
 

  たたないおちんちんを   奥主榮
 
 
 
たたないおちんちんを私はくわえている そしてそのことでとても安心してい
る このおちんちんは私を傷つけることはない 私を引き裂くことはない 私
をまるで私ではないもののように扱ったりはしない しゃぶられ なめられて
もただどろんとしているだけであって そのときにあなたが気持ちがよいのだ
ろうかとか そんなことを私は考えていない ただ自分をそこなわないおちん
ちんがあるということが嬉しくて くちでちゅうちゅうと吸っている
あなたはおちんちんがたたないことで いくつもいくつも嘘をついてきたのだ
という まるで帝王のように女たちの体を蹂躙し 快楽と愉悦との中に日々を
おくってきたふりをしてきたのだという そういう愚かしさがなぜか可愛らし
く私はあなたのからだのあちらこちらをくすぐっては笑う あなたはこらえか
ねては身をくねらせて そうすると私はさらにしあわせな気持ちになれる
 
私たちはよくけんかする 小さいことで相手が自分の傷にふれたのだと大騒ぎ
をして 灰皿を壁にたたきつける 電子レンジの扉を引きちぎる パソコンの
モニタにひびをはいらせて 壁にあなをあける トイレの配管をめちゃくちゃ
にする それから血だらけの姿になって罵りあう 罵りあいながら自分を傷つ
ける 相手をではなく自分の体に包丁や割れたグラスをつきたてる もう厭だ
と言い合いながらお互いに抱き合う
 
 けして結ばれない生殖器をこすりつけあう泣く真似をしながら頭をごしごし
 とこすりつけあい相手を乱暴に扱うことでまるで自分が人でなしでお互いに
 つきあう資格のない人間ででもあるかのようにふるまうそうすることでつな
 がっているような気分を味わおうとする けれどあなたのおちんちんはたた
 ない 私の性器の潤いはいつでもたってしまうようなおちんちんを見た瞬間
 に途絶えるのだからたたないおちんちんが私にはここちよい
 
私たちは(たぶん)しあわせな気持ちのままでいたいから けして今とは違っ
た何かなどは思うこともなく 唇でおたがいの体をすすりあい 匂いをむさぼ
り ひろげた指先でひとつでも多くの毛穴をさぐろうとする それだけでよい
 それだけで満たされているのだから私はただ たたないおちんちんをくわえ
ている それは未来永劫わたしをきずつけたりはしない

 
 
 
初出  「すとん とネ」 
関連HP  http://ttheater.hp.infoseek.co.jp/ 
 
 


 
 
 
 
 

  極端な時代の建物について。   萩原健次郎
 
 
 
極端な時代に組み立てられた小屋の材について頭を抱えながら身をちぎって考えている。中にこごまって、わたしは、ただ角ばった地と壁と、天井と、そのあらゆる隙間から漏れ見える外界をのぞみながらも、極端な青空にうんざりしている。
 
わたしの木の鋳型は、速度を落としている。ゆるやかにわたしの悲器が、眼とともに隙間から飛び出して、ちいさく呻吟している。喉を切る、木の節からうなり声を挙げる幼女をかかえてその声と、極端な青空の色彩を混ぜている。
 
穴に向かうという、小動物の尻尾をつかみ、白濁の岸を拝む。隙間からは、極端な世界が、細部にわたってくっきり見える。自分は、何物かから、あるいは何者かから救い出されたいと願っているようではあるが、この完璧な立方の中に身を縛ってただただ凝っとしていることを好んでいるのでもあった。
 
青空と交換するなけなしの銅貨を、ひたすら布袋の中に手を入れて磨いている。それを責める鳥たちが集まってきては、枠の隙間に嘴を刺してくる。わたしの内臓や器官もまた、極端に肌理をこまやかにし、艶を帯びている。
観葉種の、薬剤を彩る葉の脈をながめていたり、さすってみたり、外の通りの路面との感触の違いを確かめている。
 
身体の内から何かを取り出して売るとしたら、さて何を路面に出すか、精神のかけらも塵ももはや枯れていることに気づき、ただ大量の水を出して商いをする。
極端な時代の建物とは、身体の木の鎧のような枠かもしれない。内と外の、極端さに飽きて、吊り物の鐘をぶらりぶらりと揺らして内と外の境のない錯乱に耐えている。
 
乾燥しきった、ひとがたの木造建築物を見て通る人々もたくさんいる。極端な眼で、極端な言葉で、ただ飽きもせずに笑っている。穴や隙間の、優しい音楽も、彼らの口からは、乾いて凝固する。
 
              ●
 
わたしを縛る紐は、布でもなく樹脂でもなく、それもまた、木であった。極端すぎる枷の、わたしは知っている、その紐のことを。わたしは知っている紐のことを、わたしは誰にも言わない。
 
              ●
 
内の熱帯や外の干ばつや霊歌の旋律を膝をかかえているときに生唾を飲むように懐かしむ。母のゆるやかな思考。妹の失策もまた、坂をゆるやかに滑っていく。どこかの極端を嫌い、空を飛ぶように、炭酸飲料を飲む。
枠の中でも、枷の中でもわたしは、生きている。乾ききった、極端の果てでも、木に棲む、寄生種、ハナカミキリの細い脚を心配している。
 
人の矩形の、極端な感性を祝い、乾杯する大きな歓声にも同調して、甘い乳を枠の隙間から絞り出す。凝っとしている最速のかなしみのことなど、他人に拝まれてはじめて、報われる。
 
青空が割れていく。隙間の乳色の、ゆるやかなこと。ゆっくりと溶け出す恋のゆるやかなこと。極端な時代の極端ではない想いの伝達。電流のながれていく無限などを、地上の海の宙に、這わせている。祈らないこと。外の刺などに。外套の糸屑などにからまれて、ゆるやかにまっとうに熱を下げる。
 
極端に人を想うことを避けて、たとえば、野の平準へ帰る。伝道の穂先にたたずむ、同じ木の枷の人たち。乳を持っていってそれからみんなで恵みを授かるだろう。不確かな、水も捨てて平準な眠りまで。路面の平らな眠りまで。
 
               ●
 
極端な時代の建物は、鈍重に階数を下げる。湿潤を嫌い、人を傷つける人になり、完全なひとがたの塔となり、低空に座してそれから、青空とも対比せず、青空を透かしている。乳や水を窓という窓から垂らし、流している。
なにもできあがらない、組むことのない地面に斑な身のかけらを残して砂を盛っていく。不確かな結果の歓びに震えて、それから黙って歓声を挙げて、極端ではないちいさな説話を持ち寄って、みなで縛られよう。

 
 
 
 
作者HP  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/hag02041/ 
 
 


 
 
 
 
 




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