選者 島秀生 http://www.poem-mydear.com/ →
そして、始まり 桜瀬 えりか
アパートの窓から見える 公園の桜
もうすぐ満開になろうとしています
ねえ あなた
庭の桜も そろそろ咲き始める頃でしょうか
それぞれの道を歩き始めてから
どれほどの時が経つのでしょう
何を見ても 何をしていても
思い出すのは あなたのことばかり
―やはり私は 間違っていたのですか
うつむいた私の目に映ったのは
道端に咲いた一輪の蒲公英でした
こんなに というのは失礼かしら
そんな小さな花でさえも
日の光を浴びて精一杯生きていました
生きていました
私も もっと前を向いてみようと思います
自分で選んだこの道だから
あなたと決めた道なのだから
顔を上げ 誇らしく歩いてゆこうと思います
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エ ピ ロ ー グ 桜瀬 えりか
出会ったばかりの頃のように
貴方と二人 並んで座った
誓いの言葉も 今は
時の彼方へと押し流され
ここから見える風景は
何一つ 変わってはいないのに
私達はずいぶん変わりましたね
今私の見ている空と
貴方の瞳に映る空はきっと違う色
そっと手を繋いでみても
何も戻っては来ない
あの頃は良かったなんて
言うつもりはないけれど
心のどこかでまだ
帰り道を探しています
繋いだ指先に残る 指輪の跡
貴方はただ黙っている
いつもそうでした
変わってしまったのはたぶん 私の方
この手を離してしまえば
私達の道が再び交わることはないでしょう
それを選んだのは私なのに
今になって終止符のを打つのをためらっている
もうすぐ日が沈む公園で
手を繋いだまま あの頃のように
貴方と二人 並んで座っていた
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記 念 日 桜瀬 えりか
抱えきれないほどのプレゼントと
君が好きな色のバラの花束
今日は君と僕の 大切な記念日
テーブルに並んだ白い皿
オーブンからはいい匂いがしてる
メインディッシュのチキンが焼けたら
キャンドルに火を灯して
シャンパンを開けよう
BGMにはあの頃流行ってたラブソング
懐かしい写真を眺めながら
想い出話をたくさんしよう
いつまでも いつまでも
今日は二人の記念日だから
君はいなくなったけれど
僕は一人ぼっちだけれど
今日は二人の記念日だったから
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JIMMYのサングラス 三浦志郎
悪ガキ Jimmy
歩道の消火栓抜いて
水まき散らし涼をとった
叱られる前に姿くらます
ホラも吹くけど
ラッパも器用に吹き鳴らす
ストリートをステ−ジに
いっぱしのミュージシャン気取り
ねぇ Jimmy
出かける時は
サングラスを持って行きなよ
親父の形見という
深緑のレイバーン
歳より大人に見せたいんだろ?
だったら それをかけて
大股に歩きなよ
今夜はベイシ−の
ワンナイト・スタンド忍び込み
とろけるようなバラッドで
ふと涙がこぼれたら
それをかけて
「Yeah_____!」と叫んでふき飛ばす
いつか
彼女が出来たなら
ふたりでロマンチックな映画見て
君は泣いてしまうから
サングラスを
決して忘れちゃいけないよ
もしも
実らず終るのなら
強がってバイバイした後に
君は泣いてしまうから
自慢のサングラスは
やっぱり
優しい友達だ
泣き虫 Jimmy
でも時には
いかしたソロ取って
生まれたままの笑顔
きっと きっと さらしてよ
♪ベイシ−---アメリカの高名なジャズ音楽家
♪ワンナイト・スタンド---1晩限りの興行
初出 ネット詩誌「MY DEAR 55」 出版社 http://www.poem-mydear.com/ →
風のしおり 三浦志郎
本を開くと
詩集には
しおりひもが
よく似合う
行間に
昨日までを伝える
一条の記憶 走る
光が
溢れすぎて
あぁ
活字がすこし読みづらい
華やいだ季節のいたずら
街なかで
偶然に生まれた
一陣の風よ
もしも
心があるのなら
プラットフォ−ムで
公園で
いくばくかの優しさを
どうぞ
送ってください
読みおえたぺ−ジ
次の一枚を
うまくさらって
そして姿くらませて
なびくしおりひもが
あなたを見送る
一本の吹流し
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雲のおもい 三浦志郎
手にあまる
大きなスケッチブック
わたしを見上げる
麦わら帽子の少年よ
見つめかえすけれど
わたしは雲
声には出せない
「-------」と
白く うっすら
笑うだけ
空にしがみついて
じっとしているから
坊や
今 この時に
写生して
そうしないと
あなたの休暇さえ
残り少なくなっていく
自由で はかない
わたしは風の化身
もつれあい
追い立てられるように
漂泊するのです
疲れ果てても
寄る辺なく
いつか消えるでしょう
このからだ
空の水の
幻にも似てるから
誰のせいでもない
短かったこの夏
せめて
坊や
あなたの描いた絵となって
あなたといっしょに
わたしは
新たな生を生きましょう
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さ よ な ら 優 夜
お別れの言葉は いつも突然で
その言葉を 思い起こすと
体の中で何かが走る
熱い 線状の想い達が
血管の中を ぐるぐる巡って
それにつられて 涙が溢れてくる
泣いちゃいけないのに どうして涙が止まらないんだろう?
君が昨日言った「さよなら」っていう言葉
僕の胸を 締め付ける
僕は そのお別れの言葉が嫌いだった
突然 言われると ほんとのお別れみたいだったから…
でも君は また 僕に言ったんだ
「さよなら」って…
昨日までは あんなに元気で
あんなに仲良く遊んでいたのに…
昨日まで暖かかった 君の頬も
今日はなんか 冷たくなっちゃって
赤みを帯びた 肌も 少し青ざめてる
「男なんだから泣いちゃだめだよ!」
君は よく僕に言ってたっけ
でもさ… こんな場面でも 泣いちゃいけないのかな?
悲しさ 悔しさ 怒り 矛盾…
バラバラの気持ちが 全部一緒になっちゃって
自分でも 収集つかなくなって
出したくもない 声とか出ちゃってさ
自分で自分の状態がわかんなくて 馬鹿みたい?
ただ 「何で!?」って声だけが
ずっと頭の中で 響いてた
何で… 何で…… 何で……… って…
「人の死によって 人間は少し強くなります」
昔 何かの本で読んだ 一説
僕は 強くならなきゃいけなかったのかな?
僕が弱いから 君は離れていっちゃったのかな?
そんな事を 知らぬ間に考えてた…
あれから 年月も だいぶ経ったよ
少しは強くなったのかな…
僕の気持ちも 少しだけ 整理できたきがするけど
胸の中にあった暖かいものが
ぽっかり 空いちゃって
何か とても 寂しくってさ…
新しい 一歩を踏み出さなきゃいけないのに
体が 重く感じちゃって
なかなか 一歩が踏み出せなかったり…
失った物の大きさが
日を重ねる毎に 重くなってくのが分かるんだ
それで 時々 息苦しくなって
どうしたら良いのかな? って独りになって考えてみる
君の言った「さよなら」の意味が
僕にとって 何だったのか
あの時から 僕は強くなったのか…
考えることは 沢山あるよ
でも きっと 焦っちゃいけないんだと思う
だから 少しずつ 時間をかけて 考えるんだ
優しい光と 暖かい風に包まれながら
静かに 目を閉じて…
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電 車 物 語 優 夜
通り過ぎてく 窓の外の景色
窓際にもたれて 見てるんだ
目まぐるしく変わる 色達が
僕の視線を 釘付けにしてく
昨日は とても 曇ってたから
窓の外の景色も 暗かった
今日は 何故か 天気がよくて
外の景色も 明るくて 嬉しいな
…停車駅に電車が止まった
出発まで あと3分
対向車輌が来るまでは 窓の外の景色も止まってる
早く出発しないかな
止まってる時間が もったいなく感じる
…止まってる間に いろいろ考えた
昨日の事 今日の事 気になる事 気になる人… 沢山…
そうしてる間に…
汽笛を鳴らしながら電車が来た
3分なんて あっという間だ!
電車が流れてくると同時に こっちの扉が閉まるんだ
足早に電車を降りてく 人達のように
次第に 速度を増していく 僕が乗ってる電車
また景色が 変わるよ
線路沿いの 蒲公英も笑ってる
綿毛を 飛ばしながら ゆらゆら 揺れてるのが
僕には とても可愛く見えてさ
この綿毛は どこに行くのかな? そんな事を考えてた
踏み切りに遮られて止まってる 車達
電車を見て 笑ってる 親に連れられた子供
何でかよく解らないけど 野良猫も こっちを見てた
過ぎ去る 景色の中にだって
それぞれの 想いが転がってる
窓から受ける 光と陰も
何かを 意味してるんだと思う
この電車に 乗ってる人も
それぞれ 何かを 想い
目的地に向かってく
それは 僕も 同じ事で
何処かに向かってくんだ
でも…
停車駅が 目的地だなんて
思う人は いないだろう?
そこから また 何処かへと
足を進めてくんだから
電車は 速度を保ち
僕に 元気を くれるんだ
「カタンカタン」という音を出す電車
左右前後に揺られる 僕の体
定期的とは言えないリズムだけれど
僕は少し眠くなるんだ
でも 眠るのは もったいないと思って
窓の外の景色に 目をやっている
今日は 晴れてよかったな
外の緑達が 微笑んでる
もう少しで 僕が 降りる駅だ
今日は 何か 良い事があると良いな…
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夏 の 味 空 繭
夏がまたやってきた
と言っても
今年の夏はまだ雨模様
ほろ酔い気分のまま
目に付くコンビニに立ち寄った
120円の缶コーヒー
「Roots微糖」の季節
毎年夏が来るたびに
二人でドライブに行くたびに
「何飲む?」って聞くたびに
「Rootsの微糖」って
毎回同じ答えをする昔の男
120円を払って
今年初のそのコーヒー
ほろ苦い味と一緒に
ほろ苦い思い出
でも今は少し懐かしい
ほろ酔い気分のせいなのか
微笑みさえも浮かんでしまう
昔の思い出
夏の味
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あなたを想う 空 繭
よく行くランチタイムのこのお店
ゆったりとしたボサノバがBGM
仕事の疲れを癒すのにちょうどよい
リラックスできる一時間
カップルに人気のこのお店
二人がけの席が六つと
大きな六人がけのテーブルが一つ
いつも一人の私は
二人席の横を過ぎ
顔も知らない人達の隣へ通される
「今日の日替わり1つ下さい」と
頼んだすぐ後
若いサラリーマンが一人
私の隣に通された
「日替わり一つ」
と頼んだその時
ほんのり『レルムメン』の香りがした
二年前のクリスマス
私がプレゼントした香水
おんなじ香りが漂う その人
ハンバーグ定食が二人の前に同時に運ばれ
無言で食べ始める
他人の私たち
「おかわり下さい」と
二杯のご飯を平らげる その人
私のお皿に最後の一切れが残っている時
「ごちそうさま」と小声で一言
そういえば
あなたはいつも
私のお皿の最後の一口を
奪っていった
記憶を少し甦らせた その人に
あなたを重ねて想うのでした
今はどうしているのだろうと・・・
復活の最後の1%の可能性をも捨てた私
そして こうして今の私がいるというのに
これは 私の中に残る
あなたへの かすかな愛なのだろうか?
最後の一口を残したまま
またオフィスへと戻った私
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永遠のお別れ 空 繭
ずるずるとした関係が
今日終わった
法的手続きを全て終え
2人 駅まで歩いて行く
並んで歩く2人の距離は
心許した時とは違い
もう 他人行儀の距離をとる
もう2度と会う事ない2人なのに
交わす言葉もないままに
駅へと登る階段に着いていた
「今までありがとう」とか
「体に気を付けてね」とか
「今度はお互い幸せになろうね」とか
笑顔とか 涙とか・・・
いろんな感情があるはずなのに
私の口から出た言葉
「じゃあ、ね」って たったこれだけ
あなたの返事も
「うん・・・」って たったこれだけ
まるで また明日会う
2人のように
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