選者 いとう http://poenique.jp/ →
なくしもの 田辺弓
嘘をつく
嘘はつかないという嘘をついているという嘘を
きみはコトリ
どちらにしたって
だれも助けになんかこない
はなび
すこし遠いところから吹く風がすきだ
月はすべてをまるく照らす
くらい、くらい部屋のすみ
冷蔵庫のまるい角
冷えた床、溶けた氷には窓が映ってる
わたしと、わたしの影
日々、歩いてばかりで歩くのにも飽きてしまった
ジーンズがこすれる音
古い布が裂けるみたいに、わたしのからだも破け始めてる
並木道を歩いていて空をみあげる
月のひかりを吸った雲がたわわに実った無花果みたい
ミルク
きみの頬ははちみつの匂いがする
夜の木立をふざけて鬼ごっこしてた
きみとわたしのからだには、斑もように光と影
ちいさな染みが広がるように
それは気づかないほどすこしずつ、
カスタネット
かかとを鳴らして歩くきみのその独特のせなか
きみはコトリ
でなければコイヌ、そうでなければコリスかコイビト
どちらにしたって
だれも助けになんかこない
どこに立っていたっていいのさ
きみはコトリ
探してる、抜け目ないまちかどにコートの襟を立てて
暗号をいうんだ
作者サイト http://www2.wbs.ne.jp/~bambi/ →
川のいちにち うみほたる
(川の一日)
川によく似た日だった。
たとえば僕たちが融解したとして
かくはんされた世界。
ときどき海綿状のものがゆらゆらしていたりして、
そんなことが起こらないのがおかしいみたいな日だった。
はじまるからねえ、ととかげが云うと
終りかけてきた眼のはなしをするさんご。
たとえばのはなしをして川の一日は終る。
(結晶の崩壊)
木彫りのきりんはゆっくりと首をもたげた。
昨夜、朝に似た者が訪れた。
立ったまま眠っていたきりんは、息づかいを耳たぶで聞いた。
まるで呪いのようにそれはやってくる。
きりんは思いだす。
孤独な白樺。
水はうえからしたにおちる。
その底で、ばねが口をあけている。
ばねは水を溜めて、深く沈んでゆく。
きりんは跳躍を予想する。
けれどもそれはあまりに巨大でにぶく、
森全体をきしませたので
きりんにはわからなかった。
腹が減った。
空にこびりついた星を前歯でこそげ、口に含む。
咀嚼を終えるのにはずいぶんな時間がかかったが
そのあいだに起こったことは、
砲声のような音が空で一度、規則的に響いたくらいだった。
体内を樹液がさらさらと流れだすのをききながら
きりんは眠る。
(脱皮)
ぼくのともだちのおとうとがおぼれた
かわべりでとむらいをしたので
いちにちでかわはあふれて
たくさんのむしとむしのたまごがうかんだ
たまごをかきわけながら
ともだちはひぐれまでざぶざぶしていた
よるがきてしぼっていると
ともだちのかおがだんだんにすけて
はたくようなおとをたてて
ともだちはとんでいった
(むし)
耳がつぶれそうだ、
と彼はみみせんをして頭をふる。
黒い羽虫が体のなかを行き来していて、
今は右のひじにかたまっているんだ。
かきむしったり、むしごろしを飲んだりしたけど
やつらはなかなか死なない。
さいきん、あたらしいやりかたをためしている。
ひかりで焼きころそうと思って。
彼は眼をひらく。
みみせんをしたまま あらゆる器官をひらき、
世界のひかりに注がれる。
(川)
ぼくはながいことまちがえていた、とさんごはいう。
これはみずだとおもっていたけどちがったんだね。
ぼくしんでたようだ。さよなら。
ぼくないしょうにしていたことがある、ととかげはいう。
きみとまわりのきょうかいがぼくにはみえなかった。
ぼくはずっときみのこえとはなしをしていた。
じゃあぼくもこれなのだろうか、とさんごはいう。
わからないけど、ととかげはまばたく。
きみはとてもくっきりしたようだよ。
ぼくにも、とさんごはいう。
きみがやけにひかってみえる。
ばねがはねかえったのだね。
そしてさんごととかげはあいさつをする。
(無題)
ぼくたちはまたてんごくにとどかなかった。
いちにちめは、すこしだけいいにおいがのこっていた。
初出 フルーツバリケード内「定義」 http://fiction.jp/~letsla/ →
作者サイト http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/3120/ →
偽の植物園 岡崎よしゆき
蒼穹ということばのなかにきえてゆく鳥の声が
とりかえしようのないあえかな記憶の
みずみずしいうそを
傷つけている
そしてわたしはきみにはもうあたえることができない
と
いうよりはあたえるものさえも思いだせないままに秋の
蒼穹のなかにきえて
ゆくのである 鳥の声は。 (あざやかな
黄金状の死のなかで倒れふす男の夢が
反復され)水の気配がしずかにひろがってゆく。
ありふれた風景がひろがる秋の植物園のまぼろしが
陽射しのうちがわにおりこまれ
思いだせないもののおもさが
枯れ葉いろの空白ににじみながらしずんでゆくいたみを
すこしづつずらしながら
鳥の声をきいている
きいているのはだれだろうか
わたしではない。
作者サイト http://homepage2.nifty.com/okazakiyosiyuki/ →
打ちつけられて 嘉村奈緒
緑のべ
胸の静かな鳥、飛んでる 嘴鳴子 (呼びやる、手がさざなみだ)
ぜんぶがぜんぶ静止画のようにただの一片を切り取った
狭いから 気をつける 体を食べる線に 付き合う
(もっとも、狭いからどこに行きようもないのだけど)
気取った白いやつらにはしっぺ するんだ
撒き方を教えてもらった覚えがない何かの種 断面図の恥ずかしい雲
雨が降るよう「雨が降るよう(雨が降るよう
子供の頭はマツボックリを蹴り上げたみたいな動きをする
だから増えていって何枚もの静止画が
ない 泣き虫だァと林立する子供がそろう 穴が開くかもしれない 胸が 静かになるのかも
「一片、だけの静かな(遠い音 また旋風 ・もうひとつ
待つことにする
雨
(終わるまで増えつづけて、グショグショと泣き出す静止画・・)
マツボックリと子供の違いが 茎に巻かれてただの一片を切り取ったさざなみになる
気をつけていたのに 旋風・は、折り重なって敷き詰められる
鳴子と空車と「鳴子と空車と(線よりも図太い地平線
林立したかさぶた共がいなくなる 狭いところから泣き虫だァ、の、声 「さざなみ(白 またひとり
『帆をはろう
次の風が来たら のべの地平線まで競争もしよう
雨がたくさん集まると嵐っていうんだ
地を走る それに 憧れていた
作者サイト http://www.hat.hi-ho.ne.jp/nao404/ →
わたしは ユーリ
伝えて
伝えて
と
言われてばかり
いて
さいごの
ことば
として
わたしたち
と
わたし
で
迷う
幼稚な
すき
好き
カブトムシや
クワガタの
モビルスーツ
そんな
悲惨な
ひかり
でした
ね
ちがう
ことば
だったので
伝えませんでした
黒いひとは
大きくて
こわいです
白いひとは
傷に
気付きません
でした
やはり
わたしは
黒い髪を
かきあげて
白いひとよりも
劣っている
と
思いました
いいえ
感じました
あたたかい
くぼみに
おちました
使いふるされた
弾
が
やはり
みな
伝えて
伝えて
と
いうのですね
シャツの裾を
引っ張るように
伝えて
伝えて
カメラ
ペン
マイク
つたえて
つたえて
つたえて
いいえ
いいえ
感じました
伝えませんでした
しろい人は
すぐれていて
ざんにんに
みえます
くろい人は
やはり
おおきくて
こわいです
わたしは
それを
伝えませんでした
いいえ
感じました
いいえ
わたしの
くぼみに
おちた
使いふるされた
弾のことを
わすれるなら
誰かが
集めにくるでしょう
そして
焼き付く
いいえ
いいえ
感じます
わたしたちは
いいえ
初出 現代詩フォーラム http://po-m.com/forum/ →
作者サイト http://www.aa.alpha-net.ne.jp/cream08/ →
ひとりあそび 小夜
膨らみすぎて飛んで行くものはたくさんあるの
はみだした足 ぱんぱんの胸
底なしの空 リー・ラ・ルー
アドバルーンに文字を書いて
高く 浮かべたかったよ
行き場のなかったきみの名前も
景色のいちぶになればいい
きしきし 背中が痛んで、ひとり
リリリ、リー・ラ・ルー
鳴らない電話のベル 待ってる
かおもおんども忘れてしまって
いまは眠るだけのいちにち
だけど
ロープの端をつかみそこねて
落っこちたのも夢じゃない
背中の羽は生えずに消えた
あのてっぺんから広がる世界を見たかったよ
遠くバルーン 逆光になる 穴みたいにくろい まる
寝そべるだけのからだはいびつで 羽の名残がわめいた バルーン
アドバルーン つかまえて
小指で割ってしまいたかったよ
リリリ、リー・ラ・ルー
鳴らない電話のベル ラ・ルー
聞こえたふりでふとんをかぶってた
足りない温度がうずくまって
抱えた膝にこすれて焦げた
もいちど なまえを 呼びたかったよ
景色にとけない声 漏れて
底なしの空 飛ばずに埋めた
きみのなまえを生やして もいだ
作者サイト http://members.tripod.co.jp/fukidamarist/ →
ディドのはなし フユナ
僕は生まれ変わったらディドになりたい
というとディドはベッドの枕元に座ったまま
そのままぴくりともしないで笑うようにした。困った笑いだ。
ディドは半ズボンをはいている。それだけはわかる。
ディドはみずいろだ。それも絶対だと思う。
ディドの一日は午前六時に始まる
枕元のステンドグラスを磨いて、それからジョギングに出る
角のうちから牛乳を貰ってくる
九時には僕の部屋に戻ってマーヒーを読む
メリーゴーランドのところでアコーディオンを弾くまねをする。
それから数時間不明。
午後二時にはシュークリームを作る。
学校から帰る僕のためだ。
ディドのシュークリームはカスタードと別次元に粉砂糖が入っていて、
食べると砂糖がしゅわしゅわする。
それからもう一度、ステンドグラスを磨く。
ということはなくて
ディドはずっと枕元に座っている。でもマーヒーの所だけ本当。
ディドの食べ物は不明。
でも主食は枕に落ちている僕の髪の毛。
ディドがそれを食べるときには、
茶色がまるでたんぽぽの眩しい色になる。
でも、髪が食べ物じゃないんだって。だから不明。
ばくみたいだ、というと、ばく?と首をかしげた。ぴくりともしないで。
ディドはばくを知らない。
ディドがするのは、歌をうたうことだけだ
ステンドグラスはしょうがないので、僕が磨く。
ディドの歌はたぶんずうっと昔のものだ。
ドがドでなかったくらい。
僕は生まれ変わったらディドになりたいなあと言うと
ディドはぴくりともしないで困って笑って
気が向くと、歌をうたってくれる
ぴくりともしないで。
それでなんとなく、
僕はディドにはなれないんだと思う。絶対に。完璧に。
ディドはディド
ディドでしかないんだ、と
ディドは最初に僕に自己紹介した。でもそこじゃないんだって、ディドは言う。ぴくりともしないで。
でもそこじゃないんだ。
これが、僕のうちにいるディドのはなし。
作者サイト http://ostrich.fc2web.com →
みつばちの冒険 ami
出会ったのは
学校の図書館という
なんともうさん臭い場所だが
いかんせん
その2時間後にいるここは
清潔さを演出しようと
頑張るアイスクリーム一個サービスの
ホテルのジャグジーの中である
「人生にはコツがあるんだよ」
ニヤリと卒論を書くために図書館にいた
よその大学の学生は
他の大学を受験するために図書館に来た私が
単なる家を出る口実であることを
なるほど
見ぬいていたのか
連れ出しやすい相手だと
ぶくぶくの泡に
無邪気に戯れてはみたものの
お腹が空き始めた私は
ここで食べたってまずいから
先においしいものでもご馳走してもらえばよかったと
そうか
それが人生のコツってものなのね
人は学ぶ動物である多少の勘違いは
つきものである
フロ上りにビールならうちに帰る頃はぬけている
首筋を後から
かぷりとやられたのでまわした手首を
がぶり
とやったら背中をべろん
応戦されてしまったこいつは手強い
沸き立つ鳥肌巧みに隠し
いやん
かわいらしさも忘れない
さて
私には使命がある先にあがらなくては話にならん
照れる演技も冴え渡り
バスルームは笑顔で退散足止めはシャンプー
男の頭で泡立てて
勝負どころの着替えの速さはプールの授業で鍛え済み
男のジーンズ片手に持って
ホテル脱出バツゲーム
作者サイト http://www9.ocn.ne.jp/~cherrypi/ →
花 稀月 真皓
すちつるはら すちつるはら
頬に雨降る独り寝の
してとれへろ してとれへろ
夢に悲しき涙路
瞼を閉じた暗闇に
浮かんで消える赤き花
さよやめるく さよやめるく
止まぬ思いに蘇る
せゆひみりき せゆひみりき
肌ににじんだ 熱き星
言葉の足らぬ歯痒さに
噛み切る舌の赤き水
ちりちりちりり ひりひりり
焦がれて焦げた 胸の内
薬を塗るのはどの指か
さらさらさらら はらはらら
雪の白さに消えていく
口づけ交わした赤き花
花びら散ってなお愛し
散った花びらさえ愛し
私が摘んで 枯れた花
初出 「札幌市民文芸」14号
作者サイト http://www.mihiro.net/ →
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