選者  樋口えみこ http://village.infoweb.ne.jp/~penteka/
 
 
 

 
 
 
アラバマは若い
    山下 由
 
 
 
 
なんだか知らんが機械の神様は
ハッピーにマニアを集めてる
俺の空中の恋人は
シーツをエメラルドに変えている
おー アラバマは若い
あんたの姉ちゃんよりも
 
クリスタルのブルーは明日やって来て
楽しい料理を作るという
俺のニジマスのような野望が
学校新聞に載るといいな
おー アラバマは若い
あんたの姉ちゃんよりも
 
ちょうどダイヤモンド時刻に
不正確バッターが現れて
ピノキオの小包を食べてしまう
せっかく森があるのになあ
おー アラバマは若い
あんたの姉ちゃんよりも
 
みんなサポートの準備で忙しく
俺はリスと約束があり
57番街へ行かなければならない
赤いガラスの中のハートを見るために
おー アラバマは若い
時間が始まった頃よりも

 
 
 
 
作者サイト  http://www.ne.jp/asahi/chika/on/yamashita.htm 
 
 


 
 
 
 
 

  ふしぎなふしぎマーケット   中上哲夫
 
 
 
港の北北西の方角にふしぎなマーケットがあって
いまでもよく覚えているさ
飛び出しナイフをひそかに買い求めた会田金物店
ミシン油の匂いがいつもエーテルのように漂っていた尾形ミシン店
篠原池の丸太ん棒のような大鰻もち込んだ菊屋
世界中の雨を商っていた雨屋
そして真夜中しか開いていなかったなんじゃもんじゃ屋ひとたびアーケードくぐると懐かしい少年たちにめぐり会えるんだ
折しも一人の少年が千代田湯脇をするりすりぬけてドリブラーのように人混みかけぬけてって
市電で伊勢佐木町へ
有害着色料の駄菓子ほおばりながら露店を一店一店ぎんみしてから
きっと西部劇やターザン映画を見るのだ
くるしかったなあ
月にいち度とぼとぼ斎藤分町神戸医院の坂道のぼってったときは
雑談して抗鬱剤もらって神奈川大学学食の三五〇円ラーメンすすって(あるいは天せの六五〇円かき揚げ丼かき込んで)帰ってくるだけのことだったのだが
少年たちには会えなかったし
だれとも会いたくなかった
アーチ型屋根の下ではたくさんの影たちとすれちがうわけだけど
少年や少女の姿がレントゲン写真のようにぼうっと透けて見えるひとたちもそぞろ歩いていて
やあと声をかけたくなるんだ
ぼくは思うんだ−−−
さかさの国の住人たちのようにさかさに歩いていったらひょっとして
未来が見えるかもしれないよ
なんてったってふしぎなマーケットなんだから
 
 
                     −− 二〇〇〇年三月六日、横浜・六角橋

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  ケセラ・ソーダミント   飯村 真朱
 
 
 
空は重い
支えているのは何百何万の人で
ざわめきの波に飲まれて
粉々に壊れようとする
 
 
落ちたなら欠片を拾って
あめ玉を作ろう
ソーダミントの味がする
いくつも袋に詰めてみた
 
 
キミの夢 ボクの夢
ずっと一緒だと
何も出来ずに
後ろからついていくだけ
 
 
からころ からころ
あめ玉の踏まれる音
からころ からころ
ボクが ボクが 鳴ってる
 
 
ロケットは待っている
僕は間違う かもしれない
嘘も 嘘じゃなくて 嘘で
嘘みたいに 嘘じゃなくて
 
 
操縦席は空いている
トマトジュースにレモンを絞り
ぎゅっと飲み干す
何も残らなくてもそれでも
 
 
走ってみればいいじゃない
口笛吹いていい気なもんで
キミの分も作ったよ
やほう やほう 元気出そうぜ
 
 
ソーダミントは口に広がる
ボクは行く
ソーダミントは口に広がる
ボクは行く

 
 
 
詩集  「98%ミート」
作者サイト  http://www.linkclub.or.jp/~masoo/ 
 
 


 
 
 
 
 

  蛆虫の瓶詰   三田麻里
 
 
 
あなたは
私の嫌いな
蛆虫の瓶詰を持ってきて
「僕が好きなら
 同じように
 この蛆虫も愛して下さい」と言うのでした
「あなたを愛していますが
 蛆虫は愛せません」
と私が言うと
「僕を愛して蛆虫を愛さない
 君の愛は偽りだ」と
あなたは言うのでした
私は仕方なく
蛆虫を愛するよう努力したのでした
乳白色のくねくねと動き回る蛆虫は
よく見るとなかなか健気でいじらしく思えるようになってきました
この蛆虫を即座に嫌いといった私の気持ちが
なんだかわからなくなりました
ところが、ある日
あなたは、再び蛆虫の瓶詰を持ってきて
「こんな汚いものは
 僕にはもう必要ない」と
ポーンと投げ捨てたのでした
あなたの気持ちも
あなたを愛した私の気持ちも
なんだかわからなくなりました
ただ蛆虫は瓶の中で健気に動き回っているのでした

 
 
 
詩集  「かなしみ通り」
 
 
 


 
 
 
 
 

  うさぎじるしの夜   水野るり子
 
 
 
不眠症の
おんなともだちから
長いでんわがあって
子細をきいている
話の途中で
三日月うさぎが
うさぎ跳びして
でんわせんをよこぎる気配
(うるさいので)
鎌を手にして
からまりあった
暗いやぶから やぶへと
念を凝らして
見えかくれするうさぎいっぴき
捕らえにいく
満月の夜ではおそすぎる
三日月ほどの
まだ青くさいうさぎがいい
(ねむれない夜には
 三日月うさぎがよく効きます)
と、封をして
おんなともだちに
宅急便で送るのだ
《試してみてはどう?
 うさぎのスープ うさぎ麺
 うさぎの湿布 うさぎ酒
 うさぎまくら うさぎゆめ…》
などと レシピは つけないで。
 
ひとばんじゅう
やぶに足をとられながら
うさぎじるしを
追っかけている わたし
の かたわらで
月は だんだん ふくらんでゆき
おんなともだちは
もう寝ている…… (かな)

 
 
 
CD詩集  「うさぎじるしの夜」 http://www.cyber-poetry.jp/ 
 
 
 


 
 
 
 
 

  歩く pre-version   福畠誠治
 
 
 
はだかで
 
おしっこをして
 
ももに
 
まとわりついて
 
ピアノのまえで
 
すきなようにひいていいよ
 
いや
 
好きに弾いていて、
 
けしごむで
 
書いたでしょ
 
消して

 
 
 
 
作者サイト  http://homepage1.nifty.com/sfuku/index.html 
 
 


 
 
 
 
 

  出席簿   西岡高志
 
 
 
授業を聞き流しながら
いつも眺めていた土手
僕は今その土手に立ち
変わらぬ光景をただ眺めている
窓際の一人と目が合って
そして僕は目を伏せる
 
  学校を出れば
  街へ飛び出せば
  自分が変われるような気が
  していたけれど
 
立ち止まらず張り合わず
いつもそっぽ向きながら
ノリの合うやつらと
ただ時の流れをやり過ごしてきた
何かの拍子に思い出すのは
うっとうしかったやつのこと
 
  学校を出れば
  街へ飛び出せば
  自分が変われるような気が
  していたけれど
 
    今夜僕は
    今まで巡り会った人達の顔を
    思い出せるだけ思い出してみる
 
    そして目を開き
    一発逆転のために必要なものが
    自分の中にあるのかどうか
    初めて真剣に考えてみる
 
そして僕は五年前の
ある朝へと紛れ込む
通いなれたいつもの道
変わっているはずもないいつもの席
先生が入ってきて
そして僕は目を上げる
 
  学校を出れば
  街へ飛び出せば
  自分が変われるような気が
  していたけれど
 
  名前呼ばれる前に
  名前があるうちに
  自分で自分の名前呼び
  そして返事をする

 
 
 
詩集  「ごあいさつ」
はらいそ  http://www.man-see.com/ 
日本牛乳党  http://www.man-see.com/mowmow.html 
 
 


 
 
 
 
 

  おとうと   山本しのぶ
 
 
 
あたしのポケットに
おとうとがいて
あおいタオル地のパンツをはいて
チューチュー眠ってる
もうずっと眠ってる
から 起こせないもうずっと
起こせない
それなのに
 
あんたがあたしのおとうとというの
ながいかおほそいうでこいほほで
姉ちゃんとあたしをよぶの
なんにも喋らないくせに
年賀状もくれないくせに
そっけない顔でいつだって帰ってしまうくせに
あんたがあたしのおとうとというの
何をしてきたのかなにも知らない
何がすきなのか教えてくれない
部屋のすみで知らないうちに茂っていった
忘れられた植物みたいな気配をした
 
おとうとは
あたしのポケットのなかで
まだ起こせない
だってほらまだあたしがシャンプーしてあげるんだもん
目にはいんないようにって
じっとしてって
ちいさな頭をなでて
ごめん
 
何をしてきたか関心がない
何がすきなのかきいたことがない
いつだってつめたい姉だったから
部屋のすみでしずかに茂っていった
おとうとの記憶がないのよ
 
きっとポケットのおとうとは
目を覚ましたらとけてしまうのね
あまいキャンディみたいに
あたしの思い出に食べられて
ねえ
 
ながいかおほそいうでこいほほの
あんたがあたしのおとうとというの
おとこになったくぐもったこえで
姉ちゃんと
あたしをよぶの
(姉ちゃんと)
(呼んでくれるの)
 
いままで何をしてきたの
あんたの好きなものをおしえて

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  木琴   やまもとあつこ
 
 
 
ごくろうさまというふうでもなく
おわってしまった木琴を
もとあった所へ返しにいく
細い廊下
さわりたそうにしている女の前を通りぬけ
自動コンガたたき機六台の手のひらに見送られ
エレベーターを待つ
ドアが開き
 
ちょっと知っている顔の男一人を奥へおしこむ
木琴は平行四辺形になったりするが
音はたてたりしない
男を降ろすため廊下しかない階でいったん降りる
もどる間もなくドアが閉まる
ここはどこへも続いていない
またエレベーターを待つ
ドアが開き
さっきと同じ男が同じ場所にいて
同じ動きを待っている
木琴はその車輪を溝につまらせ
悲鳴をあげる
 
外に出ると
ここが夜で大国町であることがわかる
道には
人間のままで歩いている人はいない
決心する
木琴をおして加美まで歩こう
それしか
ない と

 
 
 
詩集  「子犬のしっぽをかみたくなった日」  空とぶキリン社 http://www11.ocn.ne.jp/~tkiichi/page007.html 
ブックスでも取り扱っております。 
 
 


 
 
 
 
 



 
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