プールサイド   なかむらてつや
 
 
プールの波のうえに陶製の船がただよう
およいでゆくのは土色のからだをしたイルカの
マハラジャ その船にはいくつか宮殿がたっていて
彼はきらびやかな宮殿の地下へとつづく
回廊をおりて好物のバター菓子を買い求めに
ゆくところらしい 陶製の船底にもぐっていくと
どこまでも広がり続ける天井の模様に
おどろいて水をたっぷりのんでしまった
親切なマハラジャがガイドをしてくれたのを
参考にして三層構造になった貝殻の店を
みてまわった ワイングラスがきれいな光に
てらされて すこしうっとりとした
そのバター菓子をわたしも食べてみたくなってきた
バター菓子職人たちは旅芸人について放浪の
生活を続けていたものらしい 不遇の時期に
ある職人がコッキーというものをひそかに
ねりこんでみた それが元祖の味らしくて
もうひとつの秘伝の材料については最後まで
教えてはくれなかった 赤ら顔のおじさんが
その店の主人だった この船のなかに七つの
店舗を持っているのだそうだ 話し込むうちに
おじさんは店の奥から判読できない古い新聞を
ひっぱりだしてきて照れながら写真のやぶにらみの
若者をゆびさした
神経質そうな痩せた青年がバター菓子選手権で
一等賞をとって貝殻のメダルを長い首から
たくさんぶらさげてにんまりと笑っていた

 
 
 

 

 
 


 

 

 

 
cradle(揺りかご)
 
●詩と画 なかむらてつや
●出版社 ポエトリージャパン
●ISBN 978-4-9906783-0-2
●価格 472円(税込)
●サイズ A6
●72P
●2013年2月2日 発行
●在庫数 あと5冊

 
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●内容
なかむらてつやさんの約5年ぶりとなる詩集。不思議な夢をそのまま見ているかのような「プールサイド」、懐かしい昔の家族を思い出すような詩篇。輝きと密度を増した新刊です。エッチングの挿し絵入り。
 
「紙芝居屋のおじさんの背中は子どもたちに人生を教えてくれていたようにそばを通り過ぎる誰かの背中をぼんやりと眺めながら乗り遅れた電車を見送るうちに物語が遠くからゆっくりと聴こえてきます。物語はトンネルを幾つも抜けてやって来るようです」なかむらてつや

 

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