職安へ   牛尾洋介
 
 
巨大な駅に面してある高層ビルに
日をおいてしばらく通い続けた
私は失業者だった
二十三階に職安はある
 
短期の派遣と請負を繰り返す
それが以前の職業だった
一日から数か月
ひとり町から町、職場へと渡る
日に誰とも話さないこともある
そして会う人は、みな通り過ぎていった
 
保険も保障もないが
仕事は愛していたといえる
それから体調を崩した
しかし本当に怖いのは先が見えることだと知る
五年が経っていた
 
私たちが部品になりきれないのは
私たちは磨耗しやすく
またそれには意思が必要で
それがなくなればもう資格はなくなる
 
早く働きましょう、
窓口の女は言った
彼女は繰り返し見てきたに違いない
そして私も、また繰り返していた
繰り返しに疲れていた
 
やみ雲に働くことはできない
家族はないのだから
エレベーターで降りながらそう考える
朝起きるのに理由を探すようになっていた
 
駅前の交差する歩道を入り混じる
人人人
ここには人が多すぎる
から誰とも会わないですむ
 
アパートの部屋に滑るように入ると
日中も締め切ったカーテンを引いた
日暮れまで待ち続けていた電話はなくても
夜が来たことにほっとする
 
明かりを消し目を閉じると
昼間考えたことは
今度はむこうからやってきた
あとどれだけ
ひとりでやっていけるだろうか──
 
履歴書の空白のように
長くなれば破れなくなるのは沈黙
また翌朝目覚めれば
電車に乗り職安へ向かった

 
 
 

 
 


 

 

 

 
アパートから
 
●著者 牛尾洋介
●出版社 ポエトリージャパン
●ISBN 978-4-9901806-1-4
●価格 1,050 円(税込)
●サイズ B6
●64P
●2012年4月5日 発行
●在庫数 あと2冊

 
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●内容
「生家」「火葬場にて」「朝のあいさつ」「男親」「首飾り」「アパートから」ほか全16篇
 

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